もくじ
はじめに
ミクストメディアの発展に影響を及ぼしたネオダダの芸術活動で、A・カプローによるハプニングでは、偶然性を取り入れて、思いがけない表現をめざしました。
音楽家ジョン・ケージは、音響を即物的に捉え、偶然性を利用しました。「4分33秒」という作品を発明しました。私は坂本龍一さんの「4分33秒」を体験しましたが、作品に対する知識が当時は無かったのでただただ集中して耳を澄ませていました。やや緊張した場の雰囲気とメトロノームのカチカチという音を記憶しています。
同じくミクストメディアの発展に影響したダダイズムは反芸術、無意味性をめざしました。しかし破壊されたカケラを積み上げる、配置する芸術は言いようのない美しさを持っています。
それはミュージシャンたちのやるサンプリングのようです。様々な何でもない音が格好良い、美しい、など様々な感情を呼び起こします。
ミクストメディアについて
日本語では混合技法と呼ばれます。
いろいろな素材を使い、様々な手法で制作したアート、または技法のことです。
基本的には、2種類以上の素材・技法の組み合わせをして制作したものです。
パステルと油絵の具、アクリル絵の具と油絵の具、鉛筆とアクリル絵の具、木炭とパステルなどです。
エドガー・ドガは版に直接インクや油絵具を用いて描画し、その上に支持体をのせて圧力をかけて転写する版画技法モノタイプとパステルのミクストメディアでバレリーナの絵を次々に仕上げていきました。絵具よりも制作に時間のかからないパステルは、早く作品を作るのには好都合の画材です。
わたしはアクリル絵の具で描き進めて油絵を重ねて仕上げたことがあります。アクリル絵の具は乾きが早く次々に絵の具を塗ることができました。シャープな表現にも向いています。油絵の具は肉肉しい感じが表現しやすいです。
ミクストメディアはシュルレアリズムやダダイズムなどの反芸術行為が端を発している、と言われています。
最初のミクストメディアとされている作品は1912 年頃。ピカソやブラックのコラージュを用いたキュビスム絵画とされています。
シュルレアリスム
戦間期。20世紀初頭ににフランスで、アンドレ・ブルトンを中心として起こった文学・芸術運動です。
1919年、最初のシュルレアリスムはブルトンの試みである自動記述です。意識や技術が追いつくより早く書き、理性・先入見から離れた思考を描くことを試みます。
1924年にブルトンが『シュルレアリスム宣言』を発表し、運動が本格的に始まりました。
ジークムント・フロイトの精神分析とカール・マルクスの革命思想を思想的基盤として無意識の表出を試みたようです。
「無意識の中にこそ本質がある」という考えのもと作品が制作されました。
驚異、意外な並列、不条理性を特徴に、非現実や夢の世界の光景を描こうとします。現実と非現実の境界を曖昧にする効果があり、そこに視覚的な驚きや混乱を引き起こします。
目的は、芸術であるとともに哲学的な思考であり、日常生活に影響や変化を及ぼすためです。
ジョルジョ・デ・キリコ、マックス・エルンスト、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、カミーユ・ゲーマンスら画家が参加しました。
キュビズム
パブロ・ピカソの《籐椅子のある静物》(1912)で、キャンバスに描かれた籐椅子のネットの部分に印刷された生地を張ってあります。
「籐の網目」の印刷されたオイルクロスが直接貼り付けられています。
同年、ジョルジュ・ブラックは木目模様を入れた紙片をそのまま支持体へと貼り付けて「パピエ・コレ」を制作しました。
「パピエ・コレ」は「貼り付けられた紙」という意をもつ用語です。
このとき用いられたオイルクロスや紙片、そして壁紙、新聞紙、雑誌、パンフレット、パッケージ、切手、マッチ箱などは、キュビスムの方法に基づき、支持体の上に表現されています。
これらの作品がミクストメディアの始まりと言われてい
ダダイズム
ダダイズムとは1910年代半ば、第一次世界大戦中のヨーロッパとアメリカの複数の都市で展開されました。
きっかけは戦争による破壊と殺人が、意味の否定・無意識の肯定を呼び起こしたためです。反美学的姿勢で、人間理性と価値観の否定による破壊的な芸術運動です。
ダダイズムに属する芸術家たちをダダイストと呼びます。ダダイストは理性、作為、意識を根本から否定しました。
「ダダ」は辞書から無作為に選んだ言葉です。意味を否定する活動のため意味なくただダダになりました。1918年ルーマニアの詩人T・ツァラの発表した「ダダ宣言」から反芸術的な文芸運動として始まりました。
美術界ではF・ピカビア、K・シュヴィッタース、M・レイらがその先鋭的な主張に刺激を受け、ダダの精神を造形化した作品を矢継ぎ早に発表しました。
切り貼りと寄せ集めによる「コラージュ」やその立体バージョンである「アサンブラージュ」などの技法を駆使した作品が展開されました。
破壊された建築のかけらで建築する
「意味のない芸術」「無意味な芸術」とされていますが、破壊された建築のかけらで建築する行為は格好良く感じてしまいます。
何でもない音を拾ってきて、組み合わせると格好良くなるというミュージシャンたちのやるサンプリングも似ています。
マルセル・デュシャン 「泉」彼は市販の男性用小便器をひっくり返して、台座に載せて 「泉」という作品とし、「R.MUTT(リチャード・マット)」とサインをしました。
ネオ・ダダ
1950年代後半から1960年代のアメリカ合衆国の美術家や美術運動を表すのに使われた用語です。
作品制作の方法論や意図が初期のダダイスムと類似点を持ちます。
ネオダダの作品の例としては、既製品の使用(レディメイド)や大衆的な図像の流用(アッサンブラージュ、コラージュ)、不条理性などがあります。
伝統的な芸術や美学の概念を否定する反芸術的なところもある。
ロバート・ラウシェンバーグは、ニューヨークを拠点に活動し、既製品を組み合わせた上から絵具を塗りつけるコンバイン・ペインティングをしました。
音楽家ジョン・ケージは、音響を即物的に捉え、偶然性を利用しました。「4分33秒」というその場の音、衣擦れや息遣いを作品としました。
J・ジョーンズは、旗や標的のイメージを絵画自体の平面性や矩形性との連関のもとに即物的に描きました。
A・カプローは、芸術的な活動領域を外在的な「環境」へと移行させ、偶然性を尊重した演劇的なハプニングを作りました。
生活/芸術、非芸術/芸術の境界を取り払う「反芸術」的傾向があります。
ミクストメディア の画材について
コラージュ
コラージュは印刷された写真の切り抜きや、端切れを貼り付ける表現方法。
自分なりのこだわりで再構築でき、想像力を鍛える遊びにもなる。
画材は、新聞の切り抜き、印刷広告、写真、布、木など
デコパージュ
デコパージュは、切り抜いたものを対象物に糊付けし、ニスなどを塗って全体を密閉し絵のように見せる技法です。
画材は、布、紙、ニス
アッサンブラージュ
アッサンブラージュとはコラージュの立体版。立体的なものを寄せ集め、積み上げたり、貼り付けたりする表現方法。
ゴミを寄せ集めて芸術作品にするというダダの思想と共鳴する。
画材は日用品や工業生産品、廃物。
ファウンド・オブジェ
ファウンド・オブジェとは、既に何らかの目的の下に使用されているものを、アート作品を構成する要素として使用し、芸術作品とする。
画材はアート作品、オブジェ。
オルタード・ブック
オルタード・ブックでは、本を別の形に変え、その外観や意味を変化させる。
画材は本。
ウェットメディアとドライメディア
ウェットメディアとドライメディアとは、ウェットメディア(画材は油絵の具、アクリル絵の具、水彩、インク、などの液体の素材)とドライメディア(画材は鉛筆、木炭、パステル、グラファイト、クレヨンなどの流動性のない素材)を組み合わせる表現技法です。
おわりに
ミクストメディアの発展に影響を及ぼしたシュルレアリスムは、1919年のブルトンの試みである自動記述から始まりました。坂口恭平さんの書かれた現実宿りも自動筆記で書かれていると聞きます。人間の記憶、動物としての記憶、物としての記憶、とどんどん視野が拡張されていくように感じます。
ジュリア・キャメロンさんのモーニングページでも自動筆記で次々に書いていくと、その日は思考がクリアになります。
私は、ミクストメディアは2種類の素材を組み合わせた作品だと思っていました。写真の切り抜きを新たなデザインに使うコラージュや、その立体版のアッサンブラージュなど様々な技法があることを知りました。
一方で子供はミクストメディアという言葉を知らなくても好きな画材を混ぜて自動筆記のように表現してしまいます。
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