色彩について その一

はじめに

 ベティ・エドワーズ の「色彩・配色・混色: 美しい配色と混色のテクニックをマスターする」を参照に色彩について書きます。

 私は絵に色を着けるのが苦手でした。せっかく描いた絵を台無しにしてしまうことも何度もありました。色彩については意識的に脳について知っておく必要があるのです。右脳と左脳について、その働き方についてです。

 右脳は視覚について直感的に、網膜で捉えたままに世界を観ることができます。左脳はその世界を言語的に理解し、恒常性を保とうとして、変動少ないいつもの世界として処理してしまいます。

 それらのことを意識した上で色彩を観察し、表現しなければならないのです。

色彩

 色彩を自在に操るには、色彩について学習することが必要があります。その秘密は脳にあります。意識していないと脳が邪魔をしてしまうのです。

 人間のふだんの生活においては、左脳をよく使っています。つまり言語モード(Lモード)が優位に立ち、あなたがイチゴを見ると、Lモードは「イチゴは赤だよ」といって片づけてしまうのです。

 しかし、ほんとうの意味で色彩を見るためには、Lモードの声を無視しなければなりません。

 右脳に支配される視覚モード(Rモード)に切りかえ、対象をよく観察するのです。Rモードで見るイチゴは、光や影や周囲の物体の影響を受けて、さまざまな色彩を展開しています。

 いちごとはこういったものだという、経験や知識が左脳で描かせてしまいます。右脳の見た実際の画を描く必要があるのです。

色彩を明度として見る

 デッサンはグレーの濃淡で描かれるため、色彩を明度に変換する方法も学ぶことができます。

 つまり、色彩を、ホワイトからブラックまでのグレー・スケールに対応する濃淡のレベルとして知覚し、判別し、描くことを学ぶのです。

 色彩に明度が重要なのは、すぐれた構図には明と暗のコントラストが不可欠だからです。コントラストの問題は、構図にも影響が出てきます。

 19世紀なかばの芸術家たちは、このような問題を回避しようとして、grisaille(グリザイユ)を用いていました。

 グレーの濃淡で完全な構図を描き、最も明るい部分から最も暗い部分にいたる明度の構造を確定したうえで彩色していました。

Lモード(言語学)Rモード(視覚情報処理)について

 Lモードとは、通常は左脳がつかさどる優位の言語モードを意味し、Rモードとは、通常は右脳がつかさどる、いわゆる視覚情報処理モードを意味しています。

 水彩画、油彩画、アクリル画といった画法にはたいてい、さまざまな絵筆のほかに、8〜20色ほどの絵具や、水やテレピン油などの溶剤、そして混色の知識が必要です。

 さらに、混色は言語を使いながら段階的に進めていく作業なので、意識の状態をLモードの優位になりがちです。混色について思案するそのたびにRモードの状態を断ち切っているのです。

大きさの恒常性、色の恒常性

 対象を正確にとらえることは、デッサン、絵画、色彩の最も基本的な要件です。

 外界に実在するものを見るという私たちの能力は脳の多様なプロセスに影響されています。

 「大きさの恒常性」と呼ばれる脳のプロセスがあります。経験や知識により物体の大きさや形が、網膜に映った直接的な情報を無視してしまうのです。

 実際に見えている対象を混乱させ、既知の情報に合致するイメージを「見る」ように私たちにしむけるのです。

 たとえば、デッサンの初心者に椅子を正面から描かせると、網膜に映った座面のイメージをねじまげて、完全な円や四角形に描くことがよくあります。

 じっさいに網膜に映っている椅子の座面は、細い横棒のような形だとしても、そのとおりに描けないのは、描き手が、座面にはすわれるだけの広さが必要だということを知っているからです。

 もう1つの例として、近くの人物と遠くの人物をとりまぜた集団をデッサンする場合、初心者は全員をほぼ同じ大きさに描いてしまいますが、それは、遠くの人物の大きさが近くの人物の5分の1ほどでしかないという網膜上の情報を脳が拒絶するからなのです。これは、大きさの恒常性の力によるものなのです。

 このような奇妙な現象は色彩についても起こります。色の恒常性と呼ばれる同様の現象で、脳は、網膜がとらえた色の情報を拒絶するのです。

 私たちの脳は、空はブルーで雲はホワイト、プロンドの髪はイエロー、木の葉はグリーンで幹はブラウンであることを「知って」いるためです。

 恒常性の目的は効率です。脳は、見慣れた物体の外観や大きさが光や距離などの条件や角度のちがいによって変わるたびに、いちいち判断しなおすことを嫌うのです。

  光による色彩の変化について

 恒常性のほかにもう1つ、色彩をとらえにくくするものに光の可変性があります。地表にたいする太陽の角度が変わるにつれて、物体の見かけ上の色彩は変化していきます。

 色の知覚を制限する先入観から逃れられれば、私たちは、独特で微妙な色彩が織りなす、とほうもなく複雑な世界をいつでも見ることができるのです。

おわりに

 我々は毎日違う日々を、同じような日々のように生活しています。脳の恒常性維持能力によるものかもしれません。同じように意識して描く対象を観察しましょう。Rモードで、網膜に映し出された世界を観察しましょう。

 描く対象はLモードの処理によって、観たままとは違うものに描いてしまいがちです。又は光の加減により変化した対象の色を、Lモードによって知識の中から引っ張ってきてしまいがちです。ですから色彩の時にはテクニックが必要なのです。

 まずは色彩を明度として観ることから始めましょう。デッサンのように、グリザイユのように白から黒への明るさの変化を観察し表現していきましょう。


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